A2 完全版 ~ 「正解」があるとは限らない

慶應義塾大学医学部卒業の40代の医師が【教祖】から、「地下鉄にサリンをまけ」といわれたら「ハイ」といって撒く・・・・・・・なぜ?そんなメチャクチャな事件が、現実に日本で発生したのでしょうか?

今回はそのことを考える上でヒントになりそうな映画を紹介します。

予告動画)A2 完全版

もしあの時

『A2 完全版』は、テレビや新聞では決して報じられないオウム真理教の「その後」の実態を描いたドキュメンタリー作品です。

こんなシーンがあります。監督の森達也が信者のひとりに「教祖からサリンを撒けと言われたていたのがあなただったら、あなたは実行していたか?」と質問すると、その信者は「いじわるな質問ですね」と断りつつ、「実行していただろう」と告白しています。

正直な告白だと思いました。しかし冷静に考えば考えるほど、疑問が湧き上がってくるのです。サリンを撒いた目的は、公安警察、検察、裁判所に勤務する者を攻撃することでした。だから霞ケ関駅でサリンを撒いたのです。

しかしもし本当にオウムの目的が、公安警察、検察、裁判所に勤務する人たちを攻撃することだったのあれば、政府機関の建物に突入するでもして直接目標対象を攻撃することが合理的だったのではないでしょうか?

狼とオウム

東アジア反日武装戦線「狼」は、三菱重工の建物を爆破する事件を起こしましたが、三菱重工の社長なり役員なりを直接狙うことをしませんでした。そう。オウムと狼には無差別」という共通点があるのです。

オウムも「狼」も、無関係の人をたくさん巻き込みました。無差別なテロをやっているのに、本人たちにその自覚がまったくないのでしょうか?

それはおそらく「思考停止」していたからでしょう。なぜ自分の頭で考えることができず、他人から「やれ」といわれたからという理由で「やる」のでしょうか?

受験勉強の弊害

おそらく受験勉強のプロセスのなかで、「問題には必ず一つの正解がある」と頭に刷り込まれていたからでしょう。だから正解が用意されていない問題に直面すると、その瞬間に右往左往してどう対処していいかわからなくなり、誰かが正解を教えてくれるのを待ち望み、教えられたことだけを従順に信じ込んでしまったのです。

人生の方程式に『答え』などあろうはずがありません。当たり前のことをいっていると思うかもしれませんが、残念ながらそのことを踏まえて行動している日本人はむしろ少数派です。受験勉強のなかで「答えが必ずある方程式」を解くことに慣れすぎると、社会にでてからも自分のやっていることに正解があると信じて疑いもしなくなるのです。

もしあなたがほんの少しでも研究をやったことがあるなら、研究において重要なことは「問題を解く」ことよりもむしろ「問題を設定する」ことや、「解ける問題を見極める」ことにあることを知っているでしょうが、「勉強」=「受験勉強」や「資格勉強」と刷り込まれた人はなかなかそのことに気づけないのです。

思考停止のオウム批判

映画「A2 完全版」は、思考停止しているオウム信者を批判します。しかし批判の矛先は、オウム信者を批判している人たちも向けられています。そこが映画「A2 完全版」の見どころの一つです。

地下鉄サリン事件が発生してから4年が経過しているのに、オウム信者のなかには自己批判できていない人たちがいることが暴露されます。しかしオウム信者を無条件に迫害する一般人も、オウム真理教のことをほとんど何も理解していないのです。

真摯にオウム真理教と向き合おうとするなら、オウム真理教の教義の矛盾点を探すはずです。そういう態度が少しでもあるなら、オウム真理教は「大乗仏教を名乗っていながら、実態としては大乗仏教ではない」という論理的な矛盾をすぐにでも指摘できるはずです。

しかしオウム真理教に反対する人たちの大半が、オウム真理教信者と同様に「思考停止」しているのです。だからオウム信者に対して「お母さんや、友達も心配しているよ。だから元の場所に戻りなさい」などと、逆効果になるようなメッセージを発信してしまうのです。

原因はアノミー

オウム信者は、もともと居た場所では失望や絶望を吸収してくれる「連帯」が欠乏していたからこそ、「連帯」を求めて宗教にハマった(出家した)のです。連帯を喪失したアノミー状態の人間に「元の場所に戻っておいで」なんていうことは、北朝鮮からの脱北者に「祖国に心配している人がいるだろうから、北朝鮮に戻ったら?」とアドバイスするようなものであることになぜ気づけないのでしょうか?

映画「A2 完全版」ではそのことを悟る人も登場します。オウム信者と本当に真剣に向き合った人たちは、「お母さんや、友達も心配しているよ。だから元の場所に戻りなさい」などというトンチンカンなメッセージをオウム信者に発信することはありません。

オウム信者と本当に真剣に向き合った人たちは、オウム信者とどのように接し、どのような言葉を語りかけているのでしょうか?その答えは映画「A2 完全版」のなかで明らかにされています。