『勇気二部作を読み解くヒント』(パスワード:7809)では、「著者になりきって、繰り返し読む」というシンプルな読書のコツを紹介しましたが、実は・・・・・『伝説の灘校国語教師』と呼ばれた橋本武先生も、同じような手法を採用しています。
橋本武先生は、無名の私立高だった灘高校を「私立初の東大合格者日本一」にした立役者のひとりです。
橋本武先生の教え子たちには、わたしが大好きな作家のひとりでもある、遠藤周作をはじめ、東大総長、最高裁事務総長、弁護士連合会事務総長、神奈川県知事など、各界の第一線で活躍している人が多数います。
橋本武先生はどんな授業をしたのでしょうか?
橋本武先生の授業のやり方は独特です。『銀の匙』という中勘助先生の自伝的小説を、中学の3年間かけて熟読したのです。なぜそんな授業をやったのでしょうか?
橋本武先生は自分が中学生だったときのことを振り返ったみたのですが、どんなテキストを使って、どんなことを学んだのか、全く思い出せなかったそうです。そしてこう思ったそうです。
「いくら一生懸命教えても生徒の記憶には残らず、卒業したら全部忘れてしまうような授業を毎日するなんて、なんてむなしいことだろう」と。
そして「生徒の心に生涯残り、生きる糧となる授業をするにはどうしたらいいのだろうか?」と考え続けた結果、
授業中に小説の中で凧揚げの場面が出てくれば、生徒と一緒に凧揚げをし、作中に駄菓子が出てくれば、教室で一緒に駄菓子を食べる。「遊ぶ」ように「学ぶ」ことが大切凧を上げたり、お菓子を食べる国語の授業にたどり着きました。
凧を上げたりお菓子を食べる目的は、『銀の匙』に登場する主人公と体験を共有することで、小説の世界を自分の世界として感じられるようにするためです。
同時に、わからないことが出てきたら、教師である橋本武先生も一緒になって調べたそうです。自分で疑問をもち、調べる習慣がついてくると、幅広い分野で自発的に学ぶようになり、その学びを確実に自分の血肉にしていけるのだとか。