K-1で活躍していた「戦う投資家」こと久保優太選手(元ウェルター級王者)は、22歳から株式投資をはじめて7年間で5億円の利益を確保していました。
しかし32歳のある日、株取引で2億2千万円の損失を出し、一瞬にして利益が消失。一転して借金4000万という窮地に陥ってしまいました。なぜ?負けたのでしょうか?
本人曰く、
3千万から5千万の取引を主に行っていた。しかしその日は、“負けられない”とムキになって2億ほど突っ込んでしまった。
【出典:ABEMA】
とのことです。
「22歳から株式投資をはじめて7年間で5億円の利益を叩き出した男」ですらムキになってしまうのです。この話を聞いたあなたは「他人はそうかもしれないが、自分は大丈夫」と自信をもって投資に挑戦できるでしょうか?
「人の振り見て我が振り直せ」ということわざがありますので、今回は「なぜ?ムキになってしまうのか?」ということについて解説しようと思います。
実は行動経済学を少し学習するだけで、久保優太選手がなにか特別な行動をしたというよりは、ごくごく【ありがちな行動】であることがわかります。裏を返せば「あなたも同じようなことをやるかもしれない」のです。
そう考えるとちょっと恐ろしいですよね?そこで今回のレポートでは、行動経済学の要点をわかりやすく解説したいと思います。
行動経済学
2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンは、行動経済学という分野の先駆者です。
カーネマンは、従来の経済学の誤りを次々に正していき、経済学者たちのいうところの合理性や論理性がいかにその場しのぎの論理であったのかを白日のもとに暴いていきました。
例えば「コインを投げて表がでたら150万円もらえる一方で、裏がでたら100万円を失うギャンブル」があるとします。あなたはこのギャンブルに挑戦するでしょうか?
コインの裏と表がでる確率がそれぞれ1/2ずつとすれば、期待値は+25万円という計算になります。合理的に考えれば「挑戦する」という結論になるはずです。少なくとも経済学が前提にする「経済人」であれば、このギャンブルに必ず挑戦するでしょう。
このように説明すれば、誰もが「やります」と答えます。しかし「ただし1回だけ」という条件をつけると、考え込んで結局は「やらない」を選ぶのです。なぜでしょうか?
その理由はズバリ「ほとんどの人間は、利益よりも損失を恐れるから」です。これを損失回避性といいます。
ようするに人は論理的思考などしないのです。計算上、得であることが明らかだったとしても、リスクを冒さないほうを本能的に選んでしまうのです。
人間の本能
「ダニエル・カーネマン心理と経済を語る」(ダニエル・カーネマン著)という本を読むと、リスクについての考え方がよくわかります。
ダニエル・カーネマンが明らかにしたことをわかりやすく説明するとこういうことです。「人は利益を目の前にするとリスクを回避し、損失を目の前にするとリスクを選考しはじめる」。
この発見は日本人の実感とマッチするはずです。
「儲かるよ?」と他人からもちかけられても「本当かな?」と疑ってしまって、結局は「やらない」を選ぶのが人情というものです。
その一方で「もうすでに負けている」という状態にいる時には、「どうせ負けているんだから、ここは一発勝負して大逆転してやろう!」と考える傾向があるのです。
そう。ほとんどの人間は本質的には「カイジ」なのです。チャンスがあるのに挑戦せず、負けが確定したら人生逆転を狙うギャンブラーなのです。
カイジにならない心得
日本人は貯金が大好きです。お金があるなら、そのお金を使って投資に挑戦するなりビジネスを立ち上げるなりすればいいのに行動しない人がほとんどです。
しかし定年をむかえてまとまった退職金をもらうと、「このままじゃ、お金が足りないかもしれない」という意識が強くなり、投資に挑戦するのですがその時点ですでに「負けている」(このままじゃお金が足りない)ため、ムキになって割に合わない勝負をして、結局は負けてしまう・・・・なんてことはよくあることなのです。
どうすれば・・・・・カイジ的な泥沼にハマらない人生を送ることができるのでしょうか?わたしたちが守らなければいけない原則があるとしたら、それはどのようなものなのでしょうか?
カイジにならないためには2つのことを守らなければいけません。
1つ目の原則は、「負けてもやり直せるうちに勝負しろ」ということです。冒頭で紹介した久保選手は大負けしましたが、その時点でまだ32歳です。本業の格闘家としてもまだまだチャンスはありますし、たくさんの希望が残されています。
カーネマンの理論では、「人はリスクの2倍の利益があれば勝負にでる」とのことです。つまり利回り200%であれば、人はリスクをとって勝負にでるのです。とはいえ現実社会では「利回り5%でも飛びつけ」といわれていますから、なかなか投資に挑戦できないのもうなづけます。
2つ目の原則は、「負けたらムキになるな」ということです。負けたら一発逆転を狙いたくなるのが人間というものなので、そのことを前提にして戦略を組み立てなければいけません。
プロの投資の世界では、(特に金融機関のなかで金融商品の取引をやっている場合)、一定の期間内に一定以上の損失を出したら取引ができないルールが設けられています。ようするに「負けられない」とムキになって勝負をすること自体が、組織によって規制されているのです。
具体的にどうすれば?
さてノーベル経済学を受賞したカーネマンの理論をわかりやすく解説してきたわけですが、「負けてもやり直せるうちに勝負しろ」、「負けたらムキになるな」といわれても、それを人生にどう生かしたらいいかわからない人も多いと思います。
どのように生かしたらいいかわからないのは「イメージ」が湧かないからです。果たして、カーネマンの理論を実践した人生というのは、どのようなイメージなのでしょうか?
絶対量ではなく変化
そのことを理解する上で役立つのは、カーネマンと同じくノーベル経済学賞を受賞したハリー・マーコウィッツの主張です。マーコウィッツはこんなことをいいました。
「我々の満足感、幸福感は資産の量ではなく、資産の変化である。」
このことを理解するためにこんな状況を考えてみてください。
Aさんは2億円の資産をもっている。しかしある日投資に失敗し、資産を9,000万円に減らしてしまった。その一方でBさんは500万円の資産をもっている。そしてある日投資に成功し、資産が3,000万円に増えた。あなたはAさんとBさんのどちらが幸せだと判断するでしょうか?
こういった場合、ほとんどの人はBさんが幸せだと答えます。Aさんは資産を減らし、Bさんは資産を増やしているのだからBさんのほうが幸せに決まっているだろうと考えるのです。しかしそれは本当でしょうか?
Aさんの資産は9,000万円、Bさんの資産は3,000万円。つまりAさんの資産はBさんの3倍です。ということは、やはりAさんのほうが幸せなのでしょうか?
しかしそれではなんとなく納得できない気持ちが残ります。1億1千万円もの資産を投資で失ったAさんが幸せなわけがないし、Aさん自身も失意のどん底にいるだろうと想像してしまう一方で、500万円を3,000万円に増やしたBさんは幸せな気持ちを味わっていることを想像するからです。
実は、現状9,000万円もの資産をもっているAさんのほうが幸せであると考えるのは従来の経済学における考え方です。過程はどうであれ「資産の絶対量が満足感を決める」と考えるのです。
その一方で500万円の資産を3,000万円に増やしたBさんの方が幸せであると考えるのが行動経済学における考え方です。「人間は今いくらもっているか?ではなく、いくら増えたか?、いくら減ったか?、で幸福感が決まる」と考えるのです。
従来の経済学の考え方よりも行動経済学の「変化」に着目した考え方のほうが、ほとんどの人の実感にあっていると思います。なぜならば人は「資産が減り続ける」ことを想像しただけで恐ろしい気持ちになるからです。
とすれば日本人のほとんどが目指している「定年退職までに老後資金を準備して、その資産を切り崩して生活する」という戦略は、「やる前から不幸が確定している」ことに気づくのではないでしょうか?
とすれば「一生幸せな気分のまま生きていたい」という場合、目指すべきイメージは一つしかありません。それはズバリ・・・・・
長期的な幸せの追求
まずはカイジ的な生き方のイメージからみていきましょう。
まるでジェットコースターにのっているかのような山あり谷ありの人生は、まさにギャンブラーの人生であり、カイジ的な人生であり、おそらくほとんどの人が「命がいくつあっても足りない」と感じるでしょう。
その一方で多くの人にとって満足度のもっとも高い生き方は、以下のような生き方ではないでしょうか?
長い人生では予想がつかないこともあり得ますので、「常に右肩上がりの人生」を実現するのは非現実的かもしれませんが、「長期的には右肩上がり」であれば実現が不可能というわけではありません。心がけ次第で実現できるのです。
しかし投資にせよ、ビジネスにせよ、人間関係にせよ、「長期的な視点でみれば右肩上がり」を意識して実現しようとしている人は驚くほど少ないのです。
例えば投資。株式投資に挑戦すれば短期的な売買で利ザヤを得ようとしてしまったり、長期的に保有するつもりで購入した金融商品を目先の値動きの変動に注目して売買してしまうことは珍しくありません。
副業や起業にしてもそうです。時代の変化が早いこともあって、10年スパンで成長し続けるということを忘れてしまう人は多いし、とにもかくにも今だけ儲かればそれでいいいう淡い期待を捨てられない人はウジャウジャしています。
受験・就職・結婚においてもそうです。志望校への合格・就職先の内定・結婚が決定した時点で、なんとなく将来の幸せが保証されたという錯覚に陥ってしまうのです。
時間は敵か味方か?
「長期的な視点でみれば右肩上がり」のイメージをもつことのメリットはたくさんあります。
まず1つ目のメリット。あなたがこれからの人生で何を成し遂げるにせよ、「長期的な視点でみれば右肩上がり」というイメージをもっていれば、「やる気がでない」ということはないでしょう。むしろ今すぐ何かに挑戦したくてウズウズするはずです。
カーネマンは人がリスクを積極的にとるのはリターンが+200%の時であることを明らかにしましたが、長期的な視点で何かに挑戦すれば200%のリターンどころか1000%のリターンを狙うことも決して夢ではないし、「時給1,000円のアルバイトから数億円の資産を構築しました」というサクセスストーリーもないわけではありません。
次に2つ目のメリット。長期的に視点に立つだけで心の平穏が手に入ります。少なくとも短期的な勝ち負けで気分がジェットコースターのように浮き沈みするなんてストレスからは解放されるでしょう。
さらに3つ目のメリット。長期的な視点に立つだけで他人の価値観に振り回されずらくなります。テレビやネットを視聴しているだけで、いろんなパターンの「新しい生き方の提案」に出会います。それらすべてが魅力的に映るはずですが、魅力的な提案を前にして浮かれている自分自身に「自分は長期的にそれをやるのか?」とツッコむだけで、頭を冷やすことができます。
さらにさらに4つ目のメリット。長期的な視点に立つだけで時間を味方につけることができます。「好きこそ物の上手なれ」という言葉もありますが、「ずっとやっている」ということだけでも評価されることもありますし、特定の専門家として何十年も活動していれば常人には真似できないスキルを身につけることでしょう。
以上、「長期的な視点でみれば右肩上がり」を意識することのメリットはたくさんありますので、是非参考にしてください。
まとめ
本レポートで伝えたかったことは、人間にも法則があるということです。人間は少しの利益ではリスクを取ろうとせず、逆に負けが確定するとリスクをとろうとする傾向があるのです。
そのような傾向があることを踏まえて「大きなリターンに向かって時間をかけて少しずつステップアップし続ける」という戦略をおススメしたわけです。その戦略が有効である証拠は世の中を見わたせばわかるはずです。
例えば住宅ローンを借りて新築マンションを購入するのは大きなリスクを伴います。しかしそれでもマイホームを購入する人がいるのは、マイホームの購入が「夢」であり、大きな希望をもたらしてくれるからです。「マンションポエム」という言葉があるように、マイホームを販売する側もそのあたりのことはちゃんと心得て宣伝しています。
他人が語る「夢」を信じてもいいし、自分が語る【夢】を信じてもいいわけです。事実、ほとんどの人が他人が語る夢を信じて、その夢を実現することが「成功」だと信じて大きなリスクを抱えています。
あなたは誰のために何をやり続けたいですか?
次回予告
次回は「臆病者のための投資戦略」というテーマでレポートをお届けします↓↓↓