私が愛した大統領 ~ 無知が国を亡ぼす

私が愛した大統領

戦後生まれの日本人は「アメリカ人は好戦的」という意識をもっているのではないでしょうか。しかし実は・・・戦前のアメリカは「戦争には巻き込まれたくない」という世論が大勢を占めていたのです。

ですから第二次世界大戦間近の1939年6月12日にイギリスからジョージ6世とエリザベス王妃が訪米した時、「戦争のときはイギリスを助けてほしい」と依頼するイギリス国王に対して、あまり歓迎する雰囲気でもなかったのです。

今回は「英国王のスピーチ」にも登場するジョージ6世とエリザベス王妃(現在のエリザベス女王の母親)が、フランクリン・ルーズヴェルトを訪問する様子を描いた映画を紹介したいと思います。

予告動画)私が愛した大統領

ルーズベルト大統領の公約

現代日本人の感覚からすると「アメリカがイギリスを援助するのは当たり前」だと感じるでしょう。しかし映画に登場するジョージ6世とエリザベス王妃はどことなく不安げです。不安な理由は明らかです。当時はアメリカがイギリスを助けてくれない可能性のほうが強かったのです。なぜでしょうか?

実はルーズベルト大統領は大統領選挙の際、「星条旗が正面から攻撃されないかぎり、絶対に戦争はしない」と公約していたのです。アメリカにおいて公約は絶対です。むしろ民主主義の国であれば公約を守らない政治家は政治家ではありません。

もちろんルーズベルト大統領の公約は、アメリカ人の民意を反映したものでした。その証拠に、こんなアンケート結果が残っています。

アメリカは戦争をめぐってどのような態度をとるべきか?
  • 英仏側に立って参戦 ⇒ 2.5%
  • ドイツ支持 ⇒ 0.3%
  • 参戦せず。現金取引で双方に武器を売る ⇒ 37.5%
  • 英仏だけに武器を売れ ⇒ 8.9%
  • 英仏が敗れそうになったとき、参戦と援助に踏み切る ⇒ 14.7%
  • 参戦も援助もしない。絶対中立。 ⇒ 29.9%

あとは「その他」であった。

【出典:大森実『チャーチル』】

菊と刀

現在ほとんどの日本人は「戦前の日本は軍国主義」だと信じているでしょう。しかし本当の軍国主義はアメリカのほうです。アメリカは一致団結して軍人も学者も「戦争に勝つために」仕事をしていたのです。

例えば社会人類学者ルース・ベネティクトによる「菊と刀」には日本人論が書かれていますが、もともとは対日戦争のための研究だったのです。そう。アメリカは社会学者までも戦争に巻き込みあらゆる角度から分析を重ね、勝利をつかみとろうとしていたのです。

もし日本が軍国主義であり知恵を結集させていれば「日本がアメリカを攻撃しないかぎり、アメリカは戦争できない」ということを理解できないはずがなかったし、ABCD包囲網によって石油をストップすれば日米戦争になるとアメリカの市民に直接訴えかけることもできたはずなのです。

そして真珠湾を攻撃せずに蘭領東印度(らんりょういんど:現在のインドネシア)を攻略し、オランダとイギリスとだけ戦っていれば日本は勝っていた可能性が高いのです。(インパール作戦を除くと、日本はイギリス軍に全勝)

選挙公約の意味

しかし残念ながら日本人はアメリカの政治を知らなかったのです。選挙公約の意味すら知らなかったのです。現在の日本の大統領も都知事も公約について知らないのですから、当時の日本人が選挙公約の意味を知らなかったとしても何ら不思議ではないのです。なぜ選挙公約の意味を知らなかったのか?

ズバリ貴族院には選挙がなかったからです。伯爵・子爵・男爵は互選(お互いの中から選挙して選び出すこと)でしたし、軍人にも選挙はありませんでした。事実、開戦前の内閣をさかのぼると近衛文麿(このえふみまろ)、米内光政(よないみつまさ)、阿部信行(あべのぶゆき)、平沼騏一郎(ひらぬまきいちろう)と、みな選挙を経ずして政治家となった総理大臣だったのです。

アメリカの世論と公約の意味を理解しなかったその後の日本は、あなたもご存知のように真珠湾攻撃を実行に移すわけですが、その後もありえないミスを重ねたことが明らかになっています。詳しくは、『ミッドウェイ ~ 奇跡の三乗』、『野火 ~ 戦争が日常に潜む』などの記事を参照してください。