自分を変える シンプルな戦略 【9.進化】

よくこんな人がいます。「貧乏はイヤだ。お金持ちになりたい。」といいながら、好きでもなく給料がよいわけでもない仕事を我慢してやっている。

そしてお金持ちになりたいならお金の使い道をよーく考えなければいけないのに、給料日にお金が手に入ればお酒を飲んで愚痴をいったり、自分へのご褒美に散財してしまう。

わたしは一体、何をやっているんだろう?」と自問自答し、「こんな自分はそろそろやめたい」と思う瞬間もあり、「どうしたら変わることができるのだろうか?」と考えだすといろいろなアイディアが思い浮かぶ。

例えば「やりたいことが見つかれば」、「元手があれば」、「学歴があれば」、「チャンスがあれば」、「資格があれば」、「助けてくれる人がいれば」、「若ければ」、「経験があれば」とか、今の自分がもっていないものや欠けている要素を次から次に思いつく。

ところが、ではそれはどのようにすれば手に入るのか?ということを考えだすと、とたんに先へ進めなくなる。思い切って挑戦しても「どうせわたしなんか、何をやってもダメなんだから」とすぐに結論づけて諦める。

お金に限らず、健康、恋愛・結婚生活・子育て・キャリア・ビジネス等の面で、心の底では「現状を変えたい」と願っていることがあるのに、なかなか『結果』を出せない・・・・・・

そしてなかなか『結果』を出せないうちに、『結果』を出せない自分が当たり前になり、そのうち「現状を変えたい」とか「自分を変えたい」という希望すら抱かなくなる・・・・・

最終的には夢や希望について考えることすら苦痛になり、夢や希望を抱いている他人を発見するとうっとうしくなったり、自分の子どもが夢や希望を語れば「現実を見ろ」といいたくなってしまう・・・・

どうすれば本当に「やりたいこと」が見つかるのでしょうか?どうすれば本当に『結果』が出せるのでしょうか?どうすれば自分自身で「じぶんは変わったな・・・」と実感できるまでの変化を生み出せるのでしょうか?

根本原因

「やりたいことが見つからない」とか、「なかなか結果が出せない」という悩みの根本原因は、実は同じなのです。どういうことでしょうか?わかりやすく説明しましょう。

人間には「現実に自分にできる」という「自分にとって居心地のいい領域」の中で活動しようとする無意識の働きがあります。その無意識の働きのことをホメオスタシス(恒常性維持機能)といい、「自分にとって居心地のいい領域」のことをコンフォートゾーンといいます。

コンフォートゾーンとはいわば「自分という人間は、だいたいこんなもの」という領域のことであり、コンフォートゾーンの外にあることはそもそも認識できないし、コンフォートゾーンから外れるとそれがよい状態であろうと悪い状態であうと居心地が悪くなり、コンフォートゾーンに戻ろうとするのです。

そう。「やりたいことが見つからない」とか、「なかなか結果が出せない」という悩みは、コンフォートゾーンというキーワードひとつで説明できるのです。ここは重要なポイントなので繰り返します。

まず「やりたい(はずの)こと」がコンフォートゾーンの外にある場合には、コンフォートゾーンの外の世界が盲点になってしまうため、そもそも「やりたい(はずの)こと」が認識できないのです。だから「やりたいことが見つからない」と悩むハメになるのです。

また「やりたいこと」が認識できたとしても、やりたいことをやるためにコンフォートゾーンの外に出なければいけない場合、「自分には無理」と挑戦する前から諦めてしまったり、挑戦しても結果が出なければ「やっぱり自分には無理だったんだ」と諦めやすくなります。

また結果が出たとしても「自分には分不相応だ」と感じてそれ以上の結果を出すことを恐れようになるのです。だから「なかなか結果が出せない」と悩むハメになるのです。

結果が出せない原因

つまり「やりたいことが見つからない」とか、「なかなか結果が出せない」という悩みの原因は、現状のコンフォートゾーンが『やりたいことなんてよくわからんし、別に結果を出さなくてもいい』という状態にあるからなのです。

「やりたいことが見つからない」とか、「なかなか結果が出せない」という悩みを解決するためにはどうすればいいのでしょうか?

答えは簡単です。「コンフォートゾーンをズラす」のです。『やりたいことなんてよくわからんし、別に結果を出さなくてもいい』というコンフォートゾーンを、『やりたいことがありすぎて、結果を出すのが当たり前』というコーンフォートゾーンにズラすのです。

コンフォートゾーンをズラす

コンフォートゾーンをズラすことに成功した人たちはどんな素晴らしい結果を出しているのでしょうか?

当たり前に結果を出す

世界的に超有名なサッカーにクリスチャーノ・ロナウドという選手がいます。日本でもバキバキの腹筋を武器にシックスパッドのCMでもお馴染みのロナウドは、試合になると「俺にボールをよこせ!!」という強気な態度でゴールを量産しています。

サッカーにあまり興味がない人のために、NiziUのリーダーであるマコさんの話をします。日本テレビの朝の情報番組「スッキリ」では、NiziUのメンバーを決めるオーディション企画が放送されていました。

わたしが印象的だったのは、他のメンバーが不安そうな顔をしてオーディションに参加するなか、のちにNiziUのリーダーに抜擢されるマコさんだけは自信満々だったことです。プロデューサーであるJ.Y. Park(本名:パク・ジニョン)はマコさんにこんな言葉を投げかけました。「マコさんはデビューする準備ができているように思います。」と。

サッカーにも芸能にも興味がない方のために、料理の話をします。ドラゴンシェフという番組があります。次世代のスター料理人を目指すべく、若手の料理人が名誉と優勝賞金の1,000万円を競い合う企画なのですが、上位にいる選手は自信満々です。「どんな状況であれ、自分が一番おいしい料理を提供できる」というような自信満々な表情をしているのです。

あなたも結果を出したければ、「結果を出すのが当たり前」のコンフォートゾーンに移動するべきです。ではどうすれば「コンフォートゾーンをズラす」ことができるのでしょうか?

コンフォートゾーンをズラす方法論はたくさんあります。その一つの方法が「コーチング」です。そう。コーチングの本質は「コンフォートゾーンをズラすこと」にあるのです。

とはいえ本レポートのなかでコーチングの理論をゼロからあなたに説明して納得してもらう・・・というのは非現実的なので、コンフォートゾーンをズラすもっとも簡単な方法を紹介したいと思います。ズバリ・・・・・

解決策:欲深くなる

コンフォートゾーンをズラスもっとも簡単な方法は「欲深くなる」ことです。例えば美味しい料理を食べるのが好きな場合、自分だけが美味しい料理を食べられればいいと考えるのは「自己中心的」な発想ですが、「家族全員に美味しい料理を食べさせてあげたい」と考えるのは欲深い発想です。

そして「家族全員」という領域を「親戚全員」にまで広げればもっと欲深くなれますし、「日本人全員」とか「世界中の人」にまで範囲を広げればさらに欲深い人間になれます。そう。「欲深い」というのは、「自己中心的」とは真逆の発想なのです。

欲深い人は「自分を変えたい」なんて思わなくても自分を変えることができます。例えば日清カップヌードルの創業者である安藤百福(あんどう ももふく)は、戦争中に自分が飢餓に苦しんだ経験をもとに世界初のインスタントラーメンであるチキンラーメンを開発します。

安藤百福は、終戦後に飢えで苦しむ人々が街にあふれる光景を目にして、「やっぱり食が大事。食がなければ、衣も住も、芸術も文化もあったものではない」と確信し、「自分がみんなを救いたい」という欲深い気持ちで事業をスタートさせたのです。

見本:煉獄杏寿郎

人気漫画『鬼滅の刃』に登場する炎柱・煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)も欲深い人間です。自分が勝てないかもしれないほど強い敵に遭遇したとき、自分の身の安全を第一に考えて逃げることもできたはずなのに、『俺は俺の責務を全うする!!ここにいるものは誰も死なせない!!』といって戦うことを選びました。

コンフォートゾーンは居心地のいい領域です。裏を返せばコンフォートゾーンの領域の外は、居心地の悪い領域です。コンフォートゾーンの外にいるだけで、緊張するし不安になるし恐怖を感じるのです。

実際問題としてあなたが自分を変えようと第一歩を踏み出せば、緊張・不安・恐怖・羞恥心・後悔・劣等感などのネガティブな感情に襲われて「こんなことに挑戦するんじゃなかった!!!」と逃げたくもなるはずです。

しかしそこで逃げてしまえば、せっかくコンフォートゾーンの外に一歩出たのに、またコンフォートゾーンの内側にとどまることになってしまうのです。誰もが寒い朝には暖かいベットから出たくはありません。しかしそこからでなければチャンスをつかむことはできないのです。

どうすれば逃げずに戦うことができるでしょうか?コンフォートゾーンの外で勝負することができるでしょうか?

やる気スイッチを探せ!

答えはもちろん「欲深くなること」です。コンフォートゾーンの外にであるために「欲深くなる」ことを提案したわけですが、世の中にはあらゆる『欲』があります。

一番わかりやすいのは人間の三大欲といわれている性欲・睡眠欲・食欲でしょう。例えば若い男性がキレイな女性に出会って恋に落ちたら・・・・愛を深めるために、あの手この手で意中の女性の気を引こうとするでしょう。

そして性欲を満たしても、睡眠欲を満たしても、食欲を満たしても、そこで立ち止まらないのが人間の性質です。「人はパンのみに生きるにあらず」というのはキリストの言葉ですが、人間が生きるためには、物質的満足だけでなく精神的満足・充実も大切なのです。

たとえば最年少18歳で司法試験に合格した大槻凜(おおつきりん)さんは、中学生のときに覚醒剤取締法違反の裁判を傍聴したことがきっかけで裁判の傍聴にハマり、楽しみながら勉強を続けて司法試験の合格をつかみました。

本人曰く、「将来は目の前にいる被告人や当事者、依頼人と心から向き合うことを忘れない。そんな法律家になりたい。」そうです。

燃え上がる願望

有名な自己啓発書「思考は現実化する」で、著者のナポレオン・ヒルは「燃え上がる願望がすべての出発点となる」と断言しています。

もしあなたが「自分を変えたい」というコンフォートゾーンから抜け出して、本当に「変わった自分」、「結果を出した自分」というコンフォートゾーンに足を踏み入れたいのであれば、「燃え上がる願望」が必要です。

断言してもいいですが、もしあなたが「燃え上がる願望」をもたないままコンフォートゾーンをズラそうとすれば痛い目にあうでしょう。なぜならば燃え上がる願望がない場合、「自分で自分を説得する」しかないからです。

「自分で自分を説得する」のは一見すると簡単な作業のようですが、とても難しいのです。他人を説得することをちょっと想像すればわかるはずです。例えばキャビアは高級な食べ物といわれています。大金を支払っても食べたい人はたくさんいるでしょう。

しかしキャビアに興味がない人に「イラン産のキャビア・ベルーガが入荷しました!500g一缶で今なら35万円です!!!絶対にお買い得!!一つどうですか?」と提案したところで、「キャビアはチョウザメの卵なんですか???おぇ・・・そんなものいらないですよ!」といわれてしまったら説得するのは難しいでしょう。

やったほうがいいこと

現代社会には「やったほうがいいこと」が大量にあります。

例えば・・・・・人生で一度くらいはキャビアを食べたほうがいい、勉強して大学に入ったほうがいい、一人はさみしいので結婚したほうがいい、クルマの免許はもっていたほうがいい、子どもは産んだほうがいい、将来のために貯蓄したり投資をしたほうがいい・・・・・・・確かにそうかもしれません。

しかし・・・・・他人から「やったほうがいいこと」がどれだけ魅力的に見えたとしても、それがあなたの「燃え上がるような願望」に火をつける保証は一切ないのです。

例えば「お金がほしい」人はたくさんいます。たしかにお金はあったほうがいいでしょう。しかしお金が燃え上がる願望に本当に火をつける保証はないのです。もし本当にお金がほしいなら、お金を手に入れるためになんでもやるでしょう。

しかしほとんどの人にとってあくまでもお金は「あったほうがいいもの」なのであって、「燃え上がる願望」に火をつけるような刺激的なものではないのです。だから「楽して稼ぎたい」という発想になり、詐欺師に騙されやすくなってしまうのです。

あなたの「燃え上がる願望」は一体どのようなものでしょうか?

ジョン万次郎

あなたはジョン万次郎を知っているでしょうか?ジョン万次郎は14歳のときに漁に出て遭難し、無人島に漂着したところを運よくアメリカの捕鯨船に救助されます。そしてアメリカに渡り、捕鯨船の船長の養子として暮らすようになります。

ジョン万次郎は日本で寺子屋教育を受けたことがなく、読み書きもそろばんもできませんでした。それにも関わらず、ジョン万次郎はアメリカに渡ってから熱心に勉強を始め、オックスフォードビレッジスクールに入学し、英語、数学、測量、航海術をなどを学びます。

その後ジョン万次郎は捕鯨船の乗組員として生活するようになるのですが、西部で起こったゴールドラッシュに目をつけて、金の採掘で大儲けします。

まさにアメリカンドリームをつかんだジョン万次郎には、そのままアメリカで幸せに暮らすという選択肢もあったはずです。しかしジョン万次郎は、わざわざ日本に帰国する道を選ぶのです。

そしてジョン万次郎は日本に帰国してから土佐藩校の教授や日米修好通商条約締結の通訳を務めるのですが、なぜジョン万次郎はアメリカでの成功を捨ててまで日本への帰国を選んだのでしょうか?

答えはもちろん「祖国に帰りたかったから」。「祖国に帰りたい」という燃え上がる願望が、ジョン万次郎を学問や金の採掘に駆り立てたのです。もう一つ例を挙げておきましょう。

星の王子さま

『星の王子さま』という作品で有名なアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリには、「人間の土地」というエッセイ集があるのですが、そのエッセイ集のなかに『嘘みたいな本当の話』がのっているので紹介します。

サン=テグジュペリは哲学者でもあり作家でもありジャーナリストでもあったわけですが、同時に郵便飛行機のパイロットでもありました。そんなある日、同僚の操縦する飛行機が雪山に墜落したという衝撃的なニュースがサン=テグジュペリの耳に飛び込んできます。

サン=テグジュペリはとっさに「助けに行かなければ!!」と思ったそうなのですが、「雪山に墜落して生きているわけがない」というような諦めムードが漂うなかで、同僚の生存は絶望的だと思われていました。

しかし本当に驚くべきことに・・・雪山に墜落した同僚は・・・自力で生還を果たすのでした。どうやって???

雪山に墜落した同僚自身、「もうダメだ」と諦めたそうです。しかし気がかりなことがありました。もし自分の死体が雪山に埋もれて発見されなかった場合、保険金が下りずに家族が困ることが心配になったのでした。

だから同僚は目の前の岩にしがみつこうと決意しました。自分の死体が雪に埋もれないようにするためです。そして目の前の岩まで到着すると「次の岩までいこう」と決意し、次の岩に到着するとまた「次の岩まで頑張ってみよう」と決意し、あと一歩、あと一歩と頑張り続けることを続けたのだそうです。

そう。「家族に保険金を残してあげたい」という願望が「家族にもう一度会いたい」という願望に火をつけたのです。

シンプルな人生戦略

「燃える上がるような願望」があったら人生がシンプルになります。燃え上がる願望は、「あなたには無理だと思う」というような他人からの無言の圧力や、壁にぶつかったときに「やっぱり自分はダメなんだ」と弱気になる気持ちをぶっ飛ばすエネルギーをもっているからです。

しかし「燃え上がるような願望」をもつこと自体が難しくなっているし、教育の現場では「燃え上がるような願望」に火をつけることよりも「やったほうがいいこと」をたくさん消化したがる大人が大量生産されています。

例えば内田樹(うちだたつる:神戸女学院大学名誉教授)先生は大学で繰り返し同じ質問をされるそうです。「何のために勉強するのですか?」、「この知識は何の役に立つのですか?」と。

ある国立大学で集中講義をしたときも、その大学の新聞部の学生からインタビューを受けたのですが、最初の質問が「現代思想を学ぶことの意味はなんですか?」というものだったそうです。

内田樹先生は「学生の傲慢さと無知さにほとんど感動した」と述べています。なぜ感動したのか?それは「現代思想を学ぶことの意味はなんですか?」と質問した学生の意図を考えれば明らかです。

この学生の質問の意図はこうです。もし内田樹先生が現代思想を学ぶことの意味について説得力のある回答をしたら「学んでもいい」が、逆に納得できなければ「学ばない」と宣言しているのです。

消費者マインド

大学教授に「現代思想を学ぶことの意味」を説明させて、自分が納得したら学ぶが納得しなければ学ばないというような傲慢な態度をしているのに、質問している本人が自分の傲慢さに気づいてもいない原因は、「消費者マインド」にあります。

「自動販売機にお金を入れたらジュースが出てくる」というように、「大学に授業料を支払って授業を受けたら、何かしらの価値を受け取れるのが当然」と信じているのです。

「ウェブサイトで本を注文したら翌日には近所のコンビニで本を受け取れる」、「アプリで注文したらすぐに自宅まで料理が届く」、「マッチングアプリに有料会員登録すれば素敵なパートナーが見つかる」、「正直よくわからないが投資をすれば節税になり得するらしい」といった消費者マインドにどっぷり浸った生活に慣れるうちに、「やったほうがいいこと」を大量にやるのが幸せを手に入れる唯一の方法だと妄信するようになるのです。

しかし現実のすべての問題は「消費者マインド」では解決できません。むしろ「消費者マインド」に慣れれば慣れるほど、将来に対する不安は強くなります。なぜならば・・・・お金で自分のスペックを上げたところで、自分よりもスペックが高くてなおかつ合理的な存在なんて・・・・・山ほどいるからです。

例えば頑張って勉強して東京大学に合格し、英語を勉強してTOEICで900点以上を獲得し、その他さまざまな資格試験に合格し、イケメンで高身長で高収入であっても不安から逃れることはできません。

なぜならばスペック競争で勝負したところで、自分よりもスペックの高い人間なんて山ほどいるからです。東京大学よりもいい大学はあるし、複数の言語をマスターしている人もいるし、もっと高い年収の人もいるし、自分よりもカッコよくてスタイルのいい人なんて・・・・・山ほどいるのが現実だからです。

性愛からの退却

他人から提案された「やったほうがいいこと」に説得されて行動すればするほど・・・・・不安は大きくなり、じぶんの中にあるはずの「燃え上がるような願望」がどこにあるかわからなくなりパワーを失っていきます。

じぶんが「消費者マインドに毒されている」ことに気づいたときにはすでに「コスパが悪いもの」、「リスクがあるもの」には挑戦できない体質になっており、「燃え上がるような願望」といわれてもピンとこない人間になってしまっているのです。

事実、教え子の学生を長年定点観測している社会学者の宮台真司先生(東京都立大学教授)は、「生身の人間と恋愛するのはやめておきます。なぜならばコスパが悪いからです。リスクは回避したいのです。」などと堂々と主張する学生を発見して愕然としたそうです。

だいぶ昔の話ですがわたしの知り合いの女性は、合コンで知り合った某大手広告代理店に勤める有名大学卒の男性から「君のような低学歴の女性に、なぜ交際を断られなければいけないの?」と真顔でいわれて本当にムカついたと教えてくれました。

プロゲーマーの『たぬなか』さんが「170cm以下の男性に人権はない」と発言して炎上したことがありましたが、現実には結婚相談所で「170cm以上の男性をお願いします。」とリクエストする女性はとても多いのです。

そう。現代社会では、男も女も恋愛相手や結婚相手を「商品」(スペック)として認識しているのです。だからこそ自分自身も他人から「商品」(スペック)として評価される可能性から逃れることができないのです。

だから仮に「いい人」に出会っても常に「もっといい人がいるかもしれない」という気持ちを捨てきれないし、「いい人」も自分のことをまるで商品のように認識しているかもしれないという可能性に怯えるハメになるのです。

不安のスパイラル

わたしたちの社会は合理性や計算可能性を追求する社会です。たくさんの人が計算不可能性(リスク)をなるべく排除した安心・安全な社会を望んでいます。事実、将来の老後にせよ、コロナ禍における日常生活にせよ、「安心したいのです。」という願望を口にする人はとても多いのです。

日本社会の除菌は加速しています。焚火はダメ。喫煙はダメ。不倫はダメ。子どもが公園で遊ぶのもダメ。ホームレスが目につくのもダメ。マスクをしないのもダメ。アルコールを飲みながら大声で話すのもダメ。不要不急の外出もダメなのです。

しかし安心のために合理性や計算可能性を追求すればするほど、「消費者マインド」は強くなり、自分自身すら「商品」として扱われる状況から逃れられなくなり、すます不安を抱えるスパイラルから抜け出すのが難しくなっていくのです。

そしてあなたが不安を抱えて「なんとかしたい!!!」とストレスを抱えるほど、国やメディアや大企業は得をします。国は「なんとかする」ために権益を拡大することできるし、メディアは視聴率を稼ぎやすくなるし、中小企業が潰れてくれれば大企業は競争力を高めることができるからです。

わたしたちは不安のスパイラルから抜け出すために何ができるでしょうか?これまであなたに伝えてきたことをまとめておきましょう。

あなたはどう生きるか?

自分を変える唯一の方法は「コンフォートゾーン」をズラスことであり、コンフォートゾーンをズラスために「欲深くなること」を推奨しました。しかし「欲深くなること」は、商品を買いあさることではありません。

商品を購入するということは「これを購入したら幸せになれますよ?ひとつどうですか?」という提案について検討することです。あなたは商品を購入したその瞬間、商品が高額であればあるほど興奮しているでしょう。しかしその興奮が長く続く保証は一切ないのです。

なぜならばあなたが商品を購入することや、あなたが商品を購入したあとにやることは「やったほうがいいこと」であり、「燃え上がるような願望」に火をつけるものである保証は一切ないのです。

燃え上がる願望は人によって異なります。弁護士になることかもしれないし、チキンラーメンを開発することかもしれないし、祖国に帰ることかもしれないし、家族に保険金を残してあげることかもしれないのです。ちなみにわたしの役目は「放火」です。

もちろんわたしは他人の家に火をつけたいのではありません。わたしはあなたの心に火をつけるお手伝いがしたいのです。火をつけたらわたしの役目は終わりです。あなたもわたしを特に必要としないでしょう。しかしそれでいいのです。

なぜならばあなたの心に火をつけることは、わたしが出会えないはずの人を幸せにすることにつながるからです。わたしは自分が死んだあとの世界でも、じぶんの影響力が残るような生き方をしたいのです。

わたしは欲深い人間です。そんなわたしからあなたに捧げる質問は「あなたは、誰のために、何をしたいのか?」です。その答えがあなたの心に火をつけたその瞬間に、あなたは今の自分のままでいることに我慢できなくなっていることに気づき、自分を変えるための行動をはじめているでしょう。

最後に・・・・あなたの心に火がついたらどうなるか?ということがよくわかるエピソードをもう一つ紹介しておきましょう。

空手家バカ一代

昭和の時代にテレビ番組や漫画『空手家バカ一代』で有名になった大山倍達(おおやま ますたつ)氏は、空手初といわれる数々の実績を残した人物です。

例えば『牛を素手で倒す』などの実績がありますし、『ビール瓶の首にあたる部分を手刀でスパッとはねる』などの技をはじめて公開したのも大山倍達氏の実績です。

大山倍達氏はビール瓶割りの技をどうやって身につけたのでしょうか?

大山倍達氏が20代半ばの頃、東京・新宿で飲んでいるときにヤクザの集団ともめごとが起こりました。機先(きせん)を制することが一番だと考えた大山倍達氏は、ビール瓶を思い切り叩き、ヤクザものたちを一喝したのです。

大山倍達氏のあまりの剣幕にヤクザものたちも矛を収めその場は事なきを得たのですが、大山倍達氏はとり散らかったコップや酒瓶のなかに、首の部分が何かで切り落とされたようにスパッととれているビール瓶を発見しました。

その時大山倍達氏は「空手でビール瓶の首をはねることができる」と思い立ったのです。そしてこのエピソードには後日談があります。

内緒の話

大山倍達氏はその後、ビール瓶割りを再現しようと修練に励んだのですが、ビールのガラス瓶はなかなか思うようには割れてはくれません。

そこで大山倍達氏が弟子たちの前でデモンストレーションする際には、あらかじめビール瓶にキズをつけて、あたかも手刀の一撃でスパッと割れたように見せていたというのです。

もちろんキズがついていたとしてもガラス瓶の首をスパッと割るなんてことは誰にでもできることではないのですが、面白いのは「内緒の話」ではなく、弟子たちの反応のほうです。

大山倍達氏がビール瓶の首を手刀でスパッと割るデモンストレーションを目撃した弟子たちは、これぞ空手の真髄だと驚き「極真空手にはそれができる」と信じたのです。

するとなんと・・・弟子たちは手刀の一撃によって、何の細工も加えていないビール瓶の首を、本当にスパッと落とせるようになってしまったのです!!!

大山倍達氏とその弟子たちのエピソードで、わたしがあなたに伝えたかったことは、どのようなことでしょうか?それはもちろん・・・・

本当に心の底から実現したいこと」(ビール瓶を手刀でスパッと割る)があって、『現実に起こると確信する』(極真空手にはそれができる)ことができたなら、その瞬間から幸せになれるだけでなく、ものすごいパワーを発揮できるということです。

はなむけの言葉

世の中には「やったほうがいいこと」はたくさんあります。「やったほうがいいこと」を実現するための情報も山ほど転がっています。しかし「やったほうがいいこと」を本当にやるかどうかは他人から説得されて決めるものではないのです。

例えば5歳の女の子が「アイスクリームを食べたい!!!」と願えば、アイスクリームを手に入れるためにあらゆることをするでしょう。アイスクリームを食べるのを邪魔する障害物があれば乗り越えようとするでしょう。そして実際にアイスクリームを食べてるときは心の底から幸せを感じているでしょう。

あなたにも「やる気スイッチ」はあるはずです。「やる気スイッチ」を押せば、なんとしてでも「ほしいもの」を手に入れようとするでしょう。しかし5歳の女の子ができることが大人にはなかなかに難しいのです。

なぜならば・・・・・学校に入りさまざまな校則に従い、さまざまな大人のアドバイスを聞き入れて社会人になった頃には、「自分という人間はこんなもの」というような信念が形成され、あなたの心の奥底にあるはずの「燃え上がるような願望」をどこかに隠してしまうからです。

しかし実際には・・・・・あなたの「燃え上がるような願望」は一切なくなっていません。あなたはあなたの人生の責任者として、それを探さなければいけません。もしあなたが「やる気スイッチ」を探すことを諦めて、「燃え上がるような願望」に火をつけることを忘れたなら・・・・・

あなたは「やったほうがいいこと」に埋もれて、今日も「わたしはどうしたらいいでしょうか?」と他人に質問しては裏切られ、「こんなはずじゃなかった」と失望し、また別の他人にアドバイスを求めては裏切られる・・・・ということを繰り返すでしょう。

繰り返しになりますが、あなたは「やる気スイッチ」を探さなくてはいけません。かつてテレビで「ぼくだけのやる気スイッチ」というCMが流れていました↓↓↓

「ぼくだけのやる気スイッチ」は子ども向けのCMですが、実際に「やる気スイッチ」を探さなくてはいけないのはむしろ「大人」の方なのです。

あなたが「やる気スイッチ」を探して「燃え上がるような願望」に火をつけることに成功し、「他人を幸せにすることで自分も幸せになる」欲深い人間になることを願っています。

【完】