人生を変える学習術

【はじめに】

レポート「人生を変える極意」では「徹底的に観察すること」の重要性をお伝えしました。しかし「何を観察すればよいかわからない」という人も珍しくありません。

「何を観察すればよいかわからない」場合、まずは「自分」を徹底的に観察することをおススメします。どうやって「自分」を観察するのでしょうか?

「自分」を徹底的に観察するもっとも手軽な方法はズバリ・・・・・「読書」です。もちろん、ただ漫然と読書をすればよいというわけではありません。

読書の目的は人それぞれです。趣味の読書であれば、好きな本を好きなように読めばよいでしょう。ビジネス目的の読書であれば、知りたい情報をできるだけ早く・安く手に入れることが重要かもしれません。

一方で自己啓発目的の読書は、「自分で自分を啓発する」ことが目的です。そのため自分が先生でもあり、生徒でもあるという矛盾を乗り越える必要があります。

先生は生徒の「知らないこと」を伝えます。生徒が「知らないこと」なのですから、生徒が「興味のないこと」である可能性も高いです。それにも関わらず、「啓発する」という目的を達成しなければならないのです。

一体、どうすればよいのでしょうか?

最悪の読書

まずは「最悪の読書」について考えてみましょう。

ここでいう最悪の読書とは、「自分がまったく成長しない」読書です。読書をした結果として、新しい発見もなければ、行動に移すこともないのであれば・・・・・その読書は単なる「時間のムダ」といっていいでしょう。

たとえば読後の感想として「やっぱり自分は正しかった」とか、逆に「この本は間違っている部分が多い」と漏らす人は、「最悪の読書」を実践していることになります。しかし驚くべきことに・・・・・「時間のムダ」をしている人は珍しくないのです。

事実、わたしが推薦図書として紹介している「嫌われる勇気」や「幸せになる勇気」のAmazonレビューをチェックすると、「最悪の読書」を実践している人がたくさん見つかります。

なぜ「最悪の読書」をしてしまうのでしょうか?その理由はズバリ・・・・・「自分の人格で読んでいるから」です。自分の人格で読むと、自分がこれまで知っていた知識や、あるいは「こうあってほしい」と思う情報の断片だけを文章の中から拾ってしまうのです。

結果、「やっぱり自分は正しかった」とか、「この本は間違っている部分が多い」という感想になってしまうのです。どうすれば「最悪の読書」を回避できるのでしょうか?

伝説の国語教師

無名の私立高だった灘高校を、東大合格者数No.1することに大きく貢献した国語教師、「橋本武」(はしもとたけし)さんの話が参考になるはずです。

橋本武さんは自分自身の学習体験を振り返って、「すぐに役立つことは、すぐに役立たなくなる」ことを確信します。なぜならば教師になるために付け焼刃的に詰め込み、覚えた知識は、ものの見事に忘れてしまったからです。

中学校の国語教師になった橋本武さんは「自分の国語の授業は、生徒にとって、どれだけ意味があるのだろうか?」と悩みます。なぜならば自分自身のことを振り返ってみても、中学生のときに国語の授業で何を学んでいたのか、ほとんど記憶になかったからです。

そして中学校の国語教師になって10年が経過した頃に終戦。「国家主義、戦意高揚を促進する」という理由で、教科書の三分の二に墨を塗りました。

教科書を使いたくても、教科書を開けば真っ黒です。「こんなものでは授業はできない」と思い、思い切ってそれまでの教科書を捨て、『銀の匙』(ぎんのさじ)という自伝的小説を教科書にすることを決断したのです。

橋本武さんの授業は独特です。中学三年間で使用する教科書は『銀の匙』のみ。小説を読むだけでなく、生徒同士で議論する時間を設けたり、小説の世界に没入するために『体験』する時間の多いことが最大の特徴でした。

たとえば『銀の匙』は全75章あるのですが、各章にタイトルがありません。そのため生徒がそれぞれタイトルをつけ、みんなで発表し合うことで、自分と他人の感じ方の違いを理解できるように工夫しました。

また小説の世界に没入するために、さまざまな「体験学習」を導入しました。たとえば小説に百人一首が出てきたら歌留多大会をやります。また凧上げのシーンがあれば、美術の時間を借りて凧をつくり、実際に屋上に出て凧を上げます。さらに駄菓子が出てくれば実際に食べたり・・・・・といった具合です。

以上、伝説の国語教師、橋本武さんのエピソードを紹介したわけですが、どのあたりが「最悪の読書」を回避し、自分で自分を啓発するヒントになっているのでしょうか?

別人格になりきる

読書をしているのは自分ですから、「自分の人格で読む」のは当たり前です。だから当たり前に「最悪の読書」を実践することになります。しかし伝説の国語教師の授業は、「自分の人格で読む」ことを回避しているのです。

教科書に採用した『銀の匙』は、ひ弱な少年だった主人公が青年へと育っていく過程を描いた作品です。そこで国語の授業では、「現代に生きる自分の人格」ではなく、「江戸の下町に生きるひ弱な少年の人格」に、なりきる工夫が仕掛けられているのです。

小説に登場する日本的な生活様式や遊び、節句など季節の行事を実際に「体験する」ことも具体的な工夫の一つですし、生徒同士で議論をすることも「現代に生きる他人の人格」に触れることにつながっているのです。

とはいえ読書をしている時、「自分の人格で読んでいる」なんてことを自覚することは、かなりムズカシイことでしょう。しかし比較する対象があれば話は変わってきます。

たとえば世界にあなた一人しか存在しなければ、あなたの身長が高いか低いか判断できません。しかし周囲の人たちと比較することができれば、自分の身長が高いか低いか判断できるのです。

読書の場合も同様です。「自分の人格」と、「作品の登場人物の人格」や「クラスメイトの人格」と比較することができれば、「自分の人格」を客観視できるのです。

そして「自分の人格」を客観視すること自体が、「新しい発見」や「新しい行動」につながっているのです。

新しい自分になる

「自分の人格」だけでなく、さまざまな人格で1冊の本を読むことが「新しい発見」や「新しい行動」につながっている・・・・・といわれても、抽象的でよくわからないかもしれないので、わかりやすい事例を紹介しておきたいと思います。

「自己啓発の読書」を実践すると、どうなるでしょうか?ズバリ「世の中の見え方」が変わります。「世の中の見え方」が変わるので、苦境を打破する道筋や、新しいチャンスに気づきやすくなります。

たとえばレポート「人生を変える極意」では、『徹底的に観察する』ことの重要性をお伝えしました。わたしがそのことに気づくことができたのは、なるべくたくさんの人格を取り入れることを習慣にして、自分をアップデートし続けたからです。すると、どうなるかというと・・・・・

わたしが大好きなラーメンの調査をしている時のことです。たまたま発見した家系ラーメン『末廣家』の動画のなかに、「自己啓発のエッセンス」がつまっていることに気づきました。

しかし大多数の人は『末廣家』の動画をみても「末廣家のラーメンが食べたい!」ぐらいの感想しか出てこないでしょうし、実際に動画のコメント欄を見ているとそういう感想であふれています。

同様に多くの人は、梅原大吾さんの動画を観れば「ゲームの話」、孫正義さんの動画を観れば「ビジネスの話」、岡田斗司夫さんの動画を観れば「ダイエットの話」、レオザさんの動画を観れば「サッカーの話」、リュウジさんの動画を観れば「料理の話」だと認識するでしょう。

しかしわたしの場合は、すべての動画に共通している自己啓発のエッセンスつまり「徹底的に観察する」ことの重要性に「自力で」気づくことができました。そして気づくことができれば、行動が変わります。

なぜならば「自分は何を徹底的に観察するべきなのだろう?」と考えることができるからです。「自分で自分を啓発する」とは、こういうことをいうのです。

騙し絵

あなたは娘と老婆のだまし絵を観たことがありますか?

【娘と老婆のだまし絵】

老婆が見える人もいれば、若い女性が見える人もいます。同じ絵のなかに、老婆と若い女性が共存しているのです。そして老婆と若い女性が同じ絵のなかに共存していることを知っていれば、老婆が見たいときには老婆を、若い女性が見たいときには若い女性を見ることも可能になります。

さて・・・・・最悪の読書とは「老婆が見えた」場合に「老婆しか見ない」ことに該当します。その一方で自己啓発の読書とは、「老婆が見えた」場合でも「他の見方もあるかもしれない」と考えて、若い女性を発見することに該当します。

たとえば家系ラーメン『末廣家』の動画を観て、「美味しそうなラーメン」しか認識できなかったのだとすれば、最悪の読書と同じことをやっていることになります。動画を観て「自己啓発のヒント」を発見し、「他にも何かあるかもしれない」と考えることが自己啓発につながっているのです。

もうお気づきのように、「自己啓発の読書」でお伝えしたことは、読書に限った話ではありません。YouTubeの動画を視聴しているときも、映画を鑑賞しているときも、現実世界を観察しているときも、あらゆる情報収集で活用できる考え方なのです。

では読書の時に、具体的にどのような手順を踏めばよいのでしょうか?順番に解説したいと思います。

自己啓発の読書手順

本レポートでは自己啓発の話をしているので、自己啓発本として異例の大ヒットを記録している「嫌われる勇気」を事例にして、『自己啓発の読書手順』について解説します。

【手順1:最悪の読書】

まずは本1冊を一言一句、丁寧に読みます。わからない単語があれば調べます。「自分の人格」で読みながら、本の全体像をザックリ把握します。そして新しい発見があれば、メモしておきます。

【手順2:登場人物の視点】

手順1のままでは「最悪の読書」になる可能性が高いです。手順2からが「自己啓発の読書」のスタートです。

手順2では登場人物になりきって本を読み直します。「嫌われる勇気」の場合、登場人物の『青年』になりきって1回読み、次に『哲人』になりきってもう一度読み直します。もちろん、新しい発見があればメモしておきます。

【手順3:著者の視点】

自分の視点、登場人物の視点の次は、「著者・作者の視点」で本を読み直します。著者・作者はなぜこの本を書いたのか?、なぜこの構成なのか?、といったことを考えながら、1冊の本を読み直すのです。

著者・作者のことがよくわからなければ、著者・作者へのインタビュー記事を探して読んでみましょう。それから「著者・作者の視点」で本を読み返してみましょう。もちろん、新しい発見があればメモしておきます。

【手順4:横道に入る】

本の中に登場するあらゆることを調べてみます。

嫌われる勇気の場合、最初の数ページをめくるだけでも、フロイトやユング、心理学、人を動かす、ギリシア哲学などのキーワードが登場します。フロイトやユングの本を読んでみたり、「人を動かす」などを読んでみるのもよいでしょう。もちろん、新しい発見があればメモしておきます。

【手順5:読書の醍醐味】

これまで学習したことを踏まえて、もう一度本を読んでください。読み返すたびに新たな発見があるはずです。そして新しい発見を、あなたの人生にどう活かせばよいか考えて、実行に移すのです!

最後に

文化庁の「国語に関する世論調査」(2018年度)によれば、日本人の平均読書量は月1冊で、なんと・・・・・半数近くは本を読まないのだそうです。

具体的には・・・・・「1、2冊」と答えた人が37.6%。「3、4冊」が8.6%。「5、6冊」が3.2%。「7冊以上」が3.2%という結果になっています。

つまり月に7冊読むだけで、あなたは読書量において日本人の上位3%に入ることができるのです。だから・・・・・「本を読め!」という主張をする人も多いですし、「速読術」などに興味をもつ人も多いのですが、本当に重要なことは「月に何冊本を読んだか?」ではなく「何冊の本を、本当に理解したか?」ではないでしょうか?

あなたが「最悪の読書」を回避し、「最高の読書」を実践することを願っています。

【完】