駆り立てるものを『選択』する

投資の世界で圧倒的な成功を収めたウォーレン・バフェットが、「成功するには常に駆り立てられていなければならない」という趣旨の発言をしているのを聞いたことがあります。

たしかにわたしたちはいろんなことに駆り立てられていますし、「駆り立てられる仕組み」をそのシステムのなかに組み込んでいるIT企業もあります。例えば・・・

日跨ぎクエスト

UBER EATS配達員の専用アプリには「今週末のクエストを木曜日の深夜12時までに選択してください」というメッセージが表示されます。そしてメッセージをクリックすると、以下の画面がひらきます。

これは「日跨ぎクエスト」をいわれる制度で、例えば金曜日~日曜日の3日間で、60回配達すると7,430円の追加ボーナス、70回配達すると9,520円の追加ボーナスをゲットできる仕組みになっています。

なおわたしがスクリーンショットを撮ったタイミングでの「日跨ぎクエスト」には、オプション1~オプション5までの5つのオプションが用意されているのですが、ここでのポイントは2つ。

1つ目のポイントは「配達員が自分でノルマを設定する」という点。2つ目のポイントは「木曜日の深夜12時以降の変更はできない」という点。これらのポイントは配達員にとってどのような意味をもつのでしょうか?

計画性・忍耐

実はこの「日跨ぎクエスト」なる制度は、配達員にとってもの凄い力を発揮する源泉になっています。例えば60回の配達で7,430円のボーナスをゲットすることを目標とする場合に、配達員がどのように考えて行動するのでしょうか?

3日で60件の配達をこなすためには、1日あたり平均20件の配達をこなす必要があります。つまり1時間で平均3件配達できる配達員の場合には、1日最低でも7時間以上働く必要があるという計算が成り立ちますので、1日のうちどの時間に7時間働くのか自分で決断しなければいけません。

そう。ノルマというものが発生した瞬間に、配達員には「計画性」が生まれるのです。

しかしどれだけ綿密な計画を立てても、UBER EATSのような仕事は「運」に左右される仕事ですので、計画通りにいくとは限りません。例えばライバルがたくさん稼働していてなかなか仕事にありつけなかったり、たまたま配達している地域で配達依頼がほとんどないという可能性だってあり得ます。

そのためノルマの達成期限が迫っている日曜日の夜の段階で「そろそろ配達をやめて自宅に帰りたい。現在、57件配達完了。あと3件の配達を頑張れば、3件分の配達報酬(推定1,500円~2,000円)と7,430円のボーナスをもらえるが、今配達をやめたらそのお金はもらえない」という状況に遭遇することがよくあるのです。

あなたならどうするでしょうか?

あと3件の配達に必要な時間は約1時間です。1時間頑張れば約9,000円の報酬が得られるけれど、そうでなければ約9,000円は諦めなくてはいけません。おそらくお金がほしくて配達員をやっている人のほとんどが「やる」と答えるはずです。

この問題をもっと具体的な数値で説明すると、配達員の心理がよくわかると思います。

翌週振り込まれる金曜日から日曜日までの3日分の配達報酬が、28,500円(1件の配達報酬500×57件)になる将来を選ぶのか?それとも60件の配達を完了させてボーナスをゲットし37,430円(1件の配達報酬500×60件+ボーナス7,430円の配達報酬をゲットする将来を選ぶのか?

今配達をやめたら28,500円。あと1時間くらい頑張れば37,430円。。。。。となれば、、、、、「あと1時間頑張る」という結論に至り、忍耐力を発揮して疲れたカラダにムチを打つことになるのです。

入院・税金・年金・所得税

今回はUBER EATS配達員を具体的な事例に沿って、「駆り立てられる仕組み」とその効果について解説しましたが、同じ機能を果たす制度はわたしたちの身近にもたくさんあります。

例えば自営業の場合、入院・手術などで高額な医療費を支払った場合、「高額医療費」の申請をすることによって、一定の金額を超えた分のお金が戻ってくることがあります。しかしそのお金が戻ってくるまでに、数か月先まで待たなくてはいけません。自営業者は「休んでいる場合ではない。稼がないと。」と自分にプレッシャーをかけることになります。

他にも例えば住民税。学生から社会人になった時、「振り込まれた給料は全部使っちまえ!!」という態度でお金を使うと、あとになって痛い目に遭います。なぜならば入社2年目になってもほとんど給料は上がらない場合が多いのに、2年目からは住民税の徴収がはじまるからです。2年目の社会人は「疲れたとかいっている場合ではない」と心を新たにするでしょう。

他にも例えば年金。年金制度は国民保険も社会保険も「賦課(ふか)方式」です。賦課方式では、自分の支払ったお金は上の世代のために使われます。自分が年金を受給するためには、若い世代に頑張ってもらわなければいけません。ですからもしあなたが現役世代であれば、年長者から「日本経済の水準をなんとしてでも維持せよ」というプレッシャーを受けることになるでしょう。

さらに所得税。あのダウンタウンも若手時代に給料をもらった分だけ使ってしまい、税金が支払えずに銀行に融資をお願いしたという経験をしたそうですが、わたしにも同じ経験があります。所得税の支払いがあると、なかなか「年収が下がってもいいから楽な仕事に転職したい」とは考えられなくなり、激務でも我慢して働かなければいけないという発想になりがちです。

あなたの動機は?

UBER EATS配達員だけでなく、誰もが「駆り立てられる仕組み」のなかにいます。UBER EATS配達員であればせいぜい数日間というスパンでの拘束で済みますが、住宅ローンを借りているのであれば数十年というスパンで駆り立てられる仕組みから抜け出せないかもしれません。

UBER EATSの配達員の事例で説明したように「駆り立てられる仕組み」には、計画性と忍耐を発揮させる機能があるため、成果を出すのに役立つケースも否定できません。

わたしが外資系企業に勤めていた時、上司に「出世するためにはどうすればいいですか?」と質問したところ、上司は「できるだけ多く借金することだよ。」と答えてくれました。ですからもしあなたも昔のわたしの上司のように、あえて「駆り立てられる仕組み」を活用するのもいいでしょう。

問題となるのは、あなたが「駆り立てられる仕組み」のなかにいることを自覚しておらず、気づいたら「駆り立てられる仕組み」のなかにいてそこから抜け出せなくて苦しんでいるような場合において発生します。

わたしが観察するかぎり、そういう状況にいる人たちの口癖は「モチベーション」です。「どうしたらもっと頑張れるのか?」ということを絶えず気にしているのです。(本当はなぜ?その状況にいるのか?ということを気にするべきだと思うのですが。。。)

ですからもしあなたが「モチベーション」という言葉をどこかで耳にしたり、モチベーションがないことを悩んでいるのであれば要注意です。なぜならば・・・・本来やりたいことをやっている人には「モチベーション」など必要ないからです。嫌なことを無理やりやろうとするから「モチベーション」という言葉が口にでるのです。

あなたにとってモチベーションなど必要がない活動とは一体どのようなものでしょうか?

例えば本当にお金がほしい人は、たとえ1億円2,700万円もの借金を抱えていて利払いだけで年間1,500万円という状況に置かれても、「わたしは最低でも月収で2,000万円ほしいから、サラリーマンをやっている場合ではない。」というように考えるものなのです。

そういう人にとってはモチベーションなんてものは必要ありません。諦めるという選択肢もありませんし、停滞するという選択肢もありません。疲れたから休むという選択肢もありません。自分が実現したいもののために、自分を駆り立てることができるのです。

繰り返しになりますが、あなたにとって「モチベーション」をあえて持ち出さずとも熱心に頑張れる活動とは、一体どのようなものなのでしょうか?