これでも国家と呼べるのか ~ 上級国民は罰せられない伝統

『飲み会絶対断らない』ことを過去にアピールしていた山田真貴子内閣広報官が辞職しました。菅義偉首相の長男が勤める放送関連会社「東北新社」から7万4千円超の接待を受けたことが炎上したのです。

重要なポイントは「炎上したから自らの意思で辞職した」のであって、何かしらの処分が下って罰せられたのではないということです。繰り返しになりますが、自らの意向で「辞職しただけ」なのです。

この件について元経産省官僚で制度アナリストの宇佐美典也(うさみのりや)さんは、「官僚ってみんなこういう接待受けてるって思うから、99%以上の人の努力が無駄になるわけですよ。ほんとムカついてます。」と語りました。(2021年2月26の「ABEMA PRIME」)

しかし歴史を振り返れば、99%以上の人の努力が無駄になってしまうこのムカつく状況は、70年前以上から続いていたのです。日本陸軍・海軍、外務省、大蔵省・・・・そして今回は総務省というわけです。

菅義偉の息子と官僚とのズブズブ関係が、いつの間にか「山田真貴子の問題」にすり替わっている点には違和感しかありませんが、その背景にある「エリートは罰せられない」という伝統について解説しておきたいと思います。

青春18きっぷ

2021年3月2日、国土交通省鉄道局の職員が偽物の「青春18きっぷ」で乗車し『免職』になったことが報道されました。では今回、菅総理の長男から接待を受けた総務省幹部は懲戒処分を受けたのでしょうか?

総務省幹部への処分
  • 谷脇康彦・総務審議官⇒減給10分の2(3カ月)
  • 吉田真人・総務審議官⇒減給10分の2(3カ月)
  • 秋本芳徳・前情報流通行政局長⇒減給10分の1(3カ月)
  • 湯本正信・前情報流通行政局担当総括審議官⇒減給10分の1(1カ月)

「下っ端は免職」、「幹部は減給」というちぐはぐな対応に違和感をもつ人は多いと思いますが、実は今回のような「エリートが罰せられない」という作法は、日本官僚組織の『伝統』なのです。

そう。『伝統』なのです。今にはじまったことではなく、日本の官僚制は70年以上も前から腐りきっていたのです。故・小室直樹先生は、『これでも国家と呼べるのか』(クレスト社、1996年)でそのことを明らかにしました。

詳しい内容に興味がある方は、原著を読んでほしいのですが、事実を知れば誰もが「あきれてものも言えなくなる歴史的な事実」を簡単にスケッチしておきましょう。

飢餓との戦い

大東亜戦争さなかのフィリピン決戦は壮絶なものでした。戦争文学の金字塔と称される大岡昇平の小説「野火」でも描かれているように、レイテ島での戦いは「敵との戦い」というよりも「飢餓との戦い」でした。

フィリピン方面の戦闘で日本軍は37万人の犠牲をだしましたが、なんと・・・・・死亡者の87%が戦死者ではなく『餓死者』だったのです。小室直樹先生は、「戦史を読んで、この件に至るたびに書をなげうって悲憤発狂せざるをえない」とコメントしています。

しかし驚くべきはここからです。

フィリピン方面軍の上級司令部は「サイゴン」(ベトナム)にあったのです。フィリピンから遠く離れたサイゴンで、総司令官の寺内寿一(てらうち ひさいち)は何をしていたのか?

答え:サイゴンの豪邸で悠々と優雅に生活していた

・・・・驚くでしょう?でも本当に驚くのはここからです。悠々と優雅に暮らしていたといっても具体的にどのようなエピソードがあるのでしょうか?

答え:愛人の赤坂の芸妓(げいぎ)を陸軍軍属として、あろうことか軍用機にのせてサイゴンに呼び寄せていたのです。

・・・・驚くでしょう?でも本当に驚くのはここからです。寺内寿一(てらうち ひさいち)は非難されたのでしょうか?

答え:寺内寿一(てらうち ひさいち)の無責任を追及したものは誰もいなかったのです。

・・・・驚くでしょう?でも本当に驚くべきは『悲憤発狂せざるをえない』エピソードは他にも山ほどあるということです。

例えば・・・・部下に「特攻せよ」と言っておきながら自らは「敵前逃亡」する司令官・・・・捕虜になったら「死刑」という軍規を部下には適用する一方で自分には適用しなかった中将・・・・etc

そして本当にムカつくことに、日本陸海軍の意思を継いだ日本官僚組織においても、「エリートで主流に立つ人には、他の人びととは違った特別な規範が適用される」という小室直樹先生が発見した法則は、今もまだ生きているのです。

では最後に。「エリートで主流に立つ人」とは具体的にどんな人なのでしょうか?

正統派の条件

「エリートで主流に立つ人」とは具体的にどのような人なのか?

この点については『中枢腐敗』(田中良太著、花伝社)にこんな記述があります。

「国民への責任」意識を持ち、正しい政策のため勉強を怠らないといった人物こそが異端視される。「正統派」は、接待など絶対に断らない人物であり、料亭を渡り歩けば渡り歩くほど「大物」といわれたというのだから恐れ入る。

【引用:中枢腐敗】

皮肉にも山田真貴子氏は『飲み会絶対断らない』といって憚(はばか)らない人物でありました。そして国民にとって不幸なことに・・・・・

辞職したのは山田真貴子氏のみであり、総務省という官僚組織はこれから先も温存され続けるのです。自浄作用を失った官僚組織は、今後もわたしたちを苦しめ続けることになるでしょう。