名前をなくした女神 ~ ママ友地獄

渋谷駅のハチ公と渋谷エクセルホテル東急の途中にある高架橋の真下で、雑誌かなにかの撮影中にポーズを決めている女優の杏さんを目撃したことがあります。あまりの美しさに同じ人間とは思えませんでした。まさに女神。。。。

今回は杏さんが主演をつとめる「名前をなくした女神」というドラマを紹介します。『ママ友地獄へようこそ』という副題が示すとおり、実はここ最近取り扱ってきた「急性アノミー」という概念を理解する上でぴったりのドラマなのです。

トレーラー(予告動画)が見つからなかったので、早速「名前をなくした女神」について解説していきたいと思います。

急性アノミー

エミール・デュルケームが発見した急性アノミーという概念について発見しました。急性アノミーとは、信じて切っていた人たちに裏切られたり、信じていた教義が否定されたときに発生するいわばパニック状態のことです。

戦後の日本人は急性アノミーにかかりました。太平洋戦争(大東亜戦争)と天皇の人間宣言が急性アノミーになった理由です。戦時中は神とあがめていた天皇が自らの口で「人間」だと宣言したのですから、日本人に与えた心のダメージはとてつもないものがありました。

ドナルド・トランプ元アメリカ大統領が、アメリカ大統領在任中に「わたしのやったことは全部間違っていまいた。」と、熱狂的なドナルド・トランプ支持者の前で宣言すれば支持者の心の中に大きな失望を生むことは間違いないでしょうが、天皇の人間宣言を聞いた日本人に与えた心へのダメージはそれ以上のものだったのです。

敗戦当時20歳だった三島由紀夫は、急性アノミーが直撃したうちの1人であり、熱狂的な天皇主義者であったがゆえに昭和天皇に対して割り切れない思いを抱えていました。英霊の聲という作品にはこんな有名な一説があります。

日本の敗れたるはよし(中略)

屈辱を嘗(な)めしはよし(中略)

されど、ただ一つ、ただ一つ、

いかなる強制、いかなる弾圧、

いかなる死の脅迫ありとても

陛下は人間なりと仰せらるべからざりし。(中略)

などて(なぜ)すめろぎ(天皇)は人間となりたまいし。

【出典:河出文庫『英霊の聲』】

急性アノミーの拡大

急性アノミーが戦後第一世代で終わっているのであれば、ここであたらめて急性アノミーの話をする必要はありません。しかし戦後の日本で急性アノミーは拡大生産されるのでした。その原因は・・・・そう、ドラマ『名前をなくした女神』のテーマでもある『受験勉強』です。

そもそもなぜ受験勉強が急性アノミーを拡大させるのでしょうか?

受験勉強最大の弊害は、友達、同世代の人間が全員敵になることです。若者にとって同じ年齢の人びとの連帯感というものは生涯の『宝物』になるはずなのに、それが受験勉強によってズタズタにされてしまっているのです。

昭和53年に共通一次が導入されてから、早稲田や慶應といった私立の入試が急激に難しくなり、東京大学に入学するためには一流の高校に入らないといけないようになりました。その結果、一流高校に入るための受験戦争が生まれ、受験戦争が中学まで拡がったのです。

小尾乕尾(おびとらお:元・東京都教育長)は「十五の春(高校入試)を泣かせない」といって、学校群制度により問題解決を図りました。その結果、確かに日比谷高校などの都立特権校がなくなりました。しかしその代わりに誕生したのが私立特権校です。そして私立特権校の誕生によって、都立特権校の時代よりもさらに悪い結果がもたらされることになるのです。

東京で「男子御三家」と称される麻布・開成・武蔵や、「女子御三家」と称される桜蔭・女子学院・雙葉などの有名私立校は中高一貫教育のシステムを採用しているため、受験戦争が小学生にまで拡がってしまったのです。結果、「十五の春(高校入試)は泣かせない」かわりに、「十二の春(中学入試)は泣かせる」という状況になったわけです。

そしてママ友地獄へ

今や「お受験」と称される小学校入試、幼稚園入試のための受験塾がウジャウジャとあふれているわけですが、受験の低年齢化が進むほど親の受験への関りが強くなります。そのことによって小尾乕尾などが想像もしていなかった状況がみられるようになりました。

そう。「ママ友地獄」です。受験勉強中の子どもにとって同世代の人間が全員敵になるように、子どもを支える両親にとっても「ママ友」が敵になってしまったのです。「ママ友」とはいいながら「ママ友は友達ではない」という精神状態にさらされるのですから、心が休まるわけがありません。

ママ友地獄の心休まらない日々は、いつ終わるのでしょうか?

残念ながらママ友地獄の心休まらない日々は、幼稚園受験・小学校受験・中学受験・高校受験・大学受験が終わっても終わりません。なぜならば現在の日本では「就職活動も親が参加するもの」になっているからです。

では子どもが就職したらママ友地獄は終わるのでしょうか?

否。婚活・離活・転職活動と、ママ友地獄はいつまでたっても終わらないのです。今回紹介したドラマ「名前をなくした女神」のラストシーンも、いつ終わるともわからない子どもと親との戦いを予感させているところがポイントになります。

敵は日本国民??

連帯をズタズタにされた結果どうなるか?コロナ禍の日本を見れば明らかです。例えば日本ではワクチン接種があまり進んでいません。欧米諸国では1日あたり100万件のワクチン接種が達成されているのに、日本では1日あたり10万件のワクチン接種がやっという体たらくです。

政府は「オリンピック前の2021年7月末までに、なんでもいいから高齢者のワクチン接種を終わらせろ!!」と号令をかけているようですが、それができないのです。なぜできないのか?それは『連帯しないから』です。

アメリカでは仕事を失った劇団員がワクチン接種会場での受付業務をやり、消防団員が時給60ドルでワクチン接種をやっているそうです。「集団免疫を獲得して、1日もはやく経済を回す」という目的のために、法律を改正し合理的に物事を進めているのです。(熱狂的なドナルド・トランプ支持者などはワクチン接種に反対していますが。)

日本はどうでしょうか?わたしが小耳にはさんだ話では、歯科医師にワクチンを打たせるという話になったとき、日本医師会は「ワクチン接種の手数料が医師と歯科医で一緒なのはけしからん」と主張し、歯科医師会は「歯科医を下にみるな」と反論するという内ゲバ闘争が水面下では繰り広げられているのだそうです。

日本が、連帯できず、空中分解して、自滅する日がこないことを願うばかりです。とするならむしろオリンピックで世界の平和を願うよりも先に、日本国内の連帯による心の平穏を願ったほうがよろしいのでは?

教育の目的

ジャン=ジャック・ルソーは、こんなことをいっています。

教育の目的は機械を作ることではなく、人間を作ることだ。

【出典:エミール】

しかし残念ながら日本の教育は、機械をつくることに熱心です。親も教師も口を開けば「勉強しろ」と壊れたラジオのように繰り返す始末です。親や教師のアドバイスどおりに勉強した生徒は、入学試験でいい成績をとることができます。しかしそのような問題はあらかじめ「正解」なるものが用意されています。

だから受験勉強をすればするほど「出題者の意図」なるものを忖度(そんたく)し、マークシートの上で唯一の正解を塗りつぶすことだけしかできなくなってしまうのです。その結果生まれるのは機械(マシーン)です。「人間もどき」が完成します。

「人間もどき」は「そもそも正解があるのか?」とか「実現可能なのか?」ということすら疑問に思わないのです。しかしそのような「人間もどき」が日本では【エリート】(かっこつきエリート)として社会を回す役割を担っているのだから、さぁ大変。

コロナ禍において「人間もどき」の【エリート】は、やれ「ステイホーム」、やれ「テレワーク」、やれ「黙食」などを壊れたラジオのように永遠と繰り返すばかりで、自分たちは「ステイホーム」・「テレワーク」・「黙食」などをやろうともしないのです。

本来の教育の目的(人間をつくる)を放棄した日本の教育が「人間もどき」を大量発生させ、ウジャウジャとあふれかえる「人間もどき」が日本を壊しているのです。

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