お役所の掟 ~ イジメへの処方箋

お役所の掟

「戦う君の歌を 戦わないやつらは笑うだろ~、ファイト!!」という歌詞が印象的な、中島みゆきの歌『ファイト』は、大塚製薬のカロリーメイトやユニクロのヒートテックのCMソングとして令和になったいまでもお茶の間に流れています。

とはいえ、そもそもなぜ?戦うのでしょうか?

鬼滅の刃の登場人物にもそれぞれ戦う理由がありましたが、ファイトではどのような「戦う理由」を想定したのでしょうか?

歌詞をみれば、戦わなければいけない理由として「男女差別・子どもの労働力の搾取・共同体への同化圧力」といったものが挙げられており、そのような問題のない世の中を実現する最大の敵は「自分」なんだというメッセージを受け取ることができます。

とはいえ、たとえばこれから紹介する歌詞の内容は、都会に住む現代人にはあまりしっくりこない部分かもしれません。

薄情もんが

薄情もんが田舎の町に あと足で砂ばかけるって言われてさ 出てくならおまえの身内も 住めんようにしちゃるって言われてさ

【出典:うたまっぷ.com

「田舎の町から東京にいくなら、お前の身内もイジメてやるぞ!」という内容であり、現代都会っ子からすれば「昭和の時代の話」かもしれませんが、この曲が発表された1983年にこの曲を聴いていたファンたちは、この歌詞に深く共感したわけです。

前置きがながくなりましたが、本題に入りましょう。

ムラから組織へ

田舎がイヤで、田舎から都会にでてきた若者たちは、日本特有の歴史的な経緯もあって、皮肉にもまた別の共同体に吸収されることになったのでした。

別の共同体とは?そう。「就職先」です。就職先はミニ国家のようなものであり、「ムラ」でもあり「イエ(家族)」でもあり、一度そのなかに入ったら最後。そこから抜け出すことは容易ではないし、組織に順応しない人物は徹底的にイジメられてしまうのです。

そして残念なことに、そのような構造はいまでもほとんど変わっていません。日本人は「遊ぶため」や「家族のため」に働くというよりは、「組織のため」という論理のほうを優先させているのです。

長年続くそのような状況に、多くの日本人が(特に若年層が)疲弊しています。退職したくでもできない人のための「退職代行サービス」が登場し、エリート官僚の集まる霞が関ですら「働き方改革」が叫ばれています。

どうすればムラ社会の閉塞感から抜け出せるのでしょうか?

横浜検疫所検疫課課長

1993年当時、横浜検疫所検疫課課長だった宮本政於(みやもとまさお)氏が書いた「お役所の掟」という本があります。医師としてアメリカの大学で教鞭をとっていた宮本氏が、日本に帰国して中途採用で入省した厚生労働省で体験した生々しい実体験を描いたこの1冊はベストセラーになりました。

官僚組織の体質や、官僚に依存しすぎる無能な政治家をあまりにも生々しくかつ具体的にディスったため、読者のほうが「宮本さんは現役の官僚なのに、こんなことを書いて本にまでしてしまって、クビにならないのかな?」と心配してしまうほどでした。

しかしおそらくは「お役所の掟」は、中島みゆきのファイト以上に、組織のなかでの閉塞感に悩んでいる人に勇気を与えるはずです。令和になった今よりもずっと閉塞的だった昭和の時代(宮本氏は1986年に入省)に、「こんなに尖っていた人がいたんだ」という発見があるだけでも価値があることだと思います。

くれぐれも「官僚の話でしょ?」と思うなかれ。「お役所の掟」を読めばわかると思いますが、官僚的な体質は昭和・平成という時代を経て、いまや日本全体に蔓延していることがわかるはずです。

精神科医としてニューヨークの大学で教鞭をとっていた著者ならではの視点で、お役所のなかで経験したことや、イジメに遭って試行錯誤してわかったことを共有してくれますので、興味のある方は是非、読んでみてください。