リップヴァンウィンクルの花嫁 ~ この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ

リップヴァンウィンクルの花

素晴らしい作品なのに観客にそれが伝わりにくい作品があります。今回紹介する『リップヴァンウィンクルの花嫁』もその一つでしょう。そこで今回は『リップヴァンウィンクルの花嫁 』の謎を解くヒントをお届けしたいと思います。

予告動画)リップヴァンウィンクルの花嫁

謎解き映画

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』は謎解き映画になっています。謎を解くためのヒントは作品のなかにたくさんあります。謎を解くためのヒントに気づくことができるかどうかが謎を解く資格があるかどうかの試金石になります。

例えばタイトルにもある『リップヴァンウィンクル』。リップヴァンウィンクルという単語は、物語をひも解く上で非常に重要な意味をもっているので説明しておきたいと思います。

リップヴァンウィンクとは1820年に公刊されたワシントン・アービングの短編集『スケッチブック』の一編として書かれた「リップ・ヴァン・ウィンクル」の主人公の名前です。

リップ・ヴァン・ウィンクルとは何者か?

リップ・ヴァン・ウィンクルは、ハドソン川の上流にあるカロスキル連山(Kaatskill mountains)のふもとに住んでいる村人です。

他人には親切にはするけれど、自分のためには働けない男です。働いて1ポンドを得るよりも持ち合わせの1ペニーでひもじい思いをする方がましだと考える性格をしています。

だから奥さんから「怠け者」、「呑気だ」などと毎日のように虐げられています。いわゆる「女房に頭のあがらぬ男」がリップ・ヴァン・ウィンクルです。

小説『リップ・ヴァン・ウィンクル』のストーリーはシンプルです。リップ・ヴァン・ウィンクルはある秋に山に入ると、自分の名前を連呼する老人に出会います。

そして老人と交流している最中に酒を飲んで眠ってしまい、目を覚ましたときには20年が経過しており、リップ・ヴァン・ウィンクルは20年後の時代を生きるのでした。

お金持ちになる秘訣

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』では、リップヴァンウィンクルを名乗る女性(真白、演:Cocco)が登場するのですが、まさに20年前の記憶を忘れないまま現代を生きています。20年前の記憶とは何か?それは『他人には親切にはするけれど、自分のためには働けない』。ここにポイントになります。

リップ・ヴァン・ウィンクルは他人に親切にする男でした。自分の仕事はしないが、他人の事なら誰にでも頼まれ次第、ふたつ返事で引き受けていました。だから村人からは非常に好かれていました。

わたしたちが生きる現代社会において、お金持ちになる秘訣のひとつは「他人に役立つこと」です。仕事とは社会に機能を提供することなのですから、他人に役立つことが必要不可欠になります。

しかしもし他人に役立つことがお金持ちになる秘訣であるなら小説「リップヴァンウィンクル」の主人公は、お金持ちになっているはずです。しかしそうはなっていません。リップ・ヴァン・ウィンクルは他人のために仕事はするが、自分のための仕事をしないせいで「女房に頭のあがらぬ男」に甘んじているのです。

現代の常識とは真逆の状況が発生しています。現代では「自分の好きなことをやる」ことが推奨されますが、本当に自分の好きなことがお金になるかはわかりません。お金がほしいなら他人に役立つことをすることが常識になっています。

リップ・ヴァン・ウィンクルは、他人のために働くことが大好きなのに、なぜお金持ちになれないのでしょうか?

交換と贈与

リップ・ヴァン・ウィンクルが他人に親切なのにお金持ちではない理由は、他人に親切にすることが「贈与」だからです。他人の役に立ったからといってお金を請求するわけではないのです。

「贈与」の対照は「交換」です。現代資本主義においては、他人に親切にする≒社会的な機能を果たす≒仕事をすると、労働の対価としてお金が発生します。これは「他人への親切」と「お金」を交換する論理そのものです。

だから現代人は他人に親切にされると「この人は何かを企んでいるのではないか?」、「何か裏があるのではないか?」、「タダより怖いものはない」などといってと疑ってしまうのです。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』の副題は『この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ』です。「本当は幸せ」とはどういうことでしょうか?「本当は」をつける意味がどこにあるのでしょうか?

もうおわかりでしょう。他人に親切にされると「あとで何かを請求されるのではないか?」と疑心暗鬼になってしまう人に対して、「(本当は)交換を前提にしない贈与がありうる」ということを、20年前からタイムスリップしてきたリップヴァンウィンクルは伝えようとしているのです。

愛はお金で買えるのか?

現代社会はかつてお金で買えなかったものまで買えるように進化しました。夜遅くに「マクドナルドが食べたい」という衝動に駆られれば、UBER EATSのアプリを開けば欲望を満たすことができます。

UBER EATSだけではありません。愛も同じです。「婚活アプリ」なんて一昔前では考えられなかったツールまで誕生しています。しかしそこにあるのは「交換の論理」です。

「わたしを愛してくれたら、わたしもあなたを愛します。」とか、「わたしはあなたを愛するので、あなたもわたしを愛してください。」などというような交換の論理が『常識』だと信じられています。

しかし「(本当は)交換を前提にしない贈与としての愛もありうる」のです。というか人類の歴史を振り返れば、贈与としての「愛」が常識なのであって、交換としての愛は「愛」ではなかったのです。

20年前からタイムスリップして現代を生きるリップヴァンウィンクルの導きによって、映画「リップ・ヴァン・ウィンクル」の主人公(七海、演:黒木華)はどのような気づきを得るのでしょうか?その答えはあなた自身の目で確かめてみるとよいでしょう。