ハンナ・アーレント ~ 学問的常識は直感に反する

ハンナ・アーレント

今でも日本では何か問題が起こると「犯罪者の心が、行動の原因である」という話になりがちです。しかし学問領域では「必ずしもそうではない」という主張が常識になっています。とはいえ、そのことを真正面から主張するのは難しいことです。

なぜならばそのように主張すれば、「お前は犯罪者を擁護するのか?」と反論されることになるからです。わたしが知る限り、そのことで一番炎上したのは「ハンナ・アーレント」という哲学者です。

ハンナ・アーレント

ハンナ・アーレントは第二次世界大戦でナチスドイツに強制収容所に入れられるも、命からがらアメリカに逃げることに成功したユダヤ人女性です。ハンナ・アーレントは常識をぶち壊した論調により、同胞であるはずのユダヤ人からも脅迫される羽目になりました。

大学教授としても著述家としてももともと有名な彼女でしたが、彼女を世界的に有名にしたきっかけはアドルフ・アイヒマン裁判でした。アドルフ・アイヒマンとは、ゲシュタポのユダヤ人移送局長官で、アウシュヴィッツ強制収容所へのユダヤ人大量移送に関わった人物です。

アイヒマンは、第二次世界大戦が終わってから12年間も国外逃亡を続けており、最終的にはモサド(イスラエル諜報特務庁)が、アルゼンチンに潜伏中のアイヒマンを拉致して捕まえるのです。拉致されたアイヒマンはドイツの裁判ではなく、イスラエルの裁判にかけられるわけですが、その裁判をイスラエルまでいって傍聴し、裁判に関する記事を執筆したのがハンナ・アーレントというわけです。

ここまでが最低限の前提知識です。ここからが本題です。

ハンナの主張

ハンナ・アーレントはこんなことを主張しました。「アイヒマンは平凡すぎるぐらい平凡な人間である。」と。

これに家族や親せきを殺されたユダヤ人は「悪魔を擁護するのか?」と大激怒しました。なぜならばユダヤ人にとってアイヒマンとは「悪魔」だったからです。

しかしハンナ・アーレントは、「アイヒマンは悪魔などではなく、ただ命令に従っただけの官僚だった。」という主張を曲げないから、さぁ、大変。。。。。

ハンナは「心が行動の原因である」という多くの人が疑わないであろう直感を否定しました。しかしその他大勢のユダヤ人は、ハンナの主張を受け入れるわけにはいきません。アイヒマンは「悪魔の心をもった人間」でなければ納得できないわけです。

あなたはどちらの主張が正しいと思いますか?

日本にも生息する平凡な悪

アイヒマンが逮捕された1950年代には結論はでていませんでした。しかしアイヒマン裁判から70年が経過した日本の現実をみれば、答えは明らかなように思えます。「わかっちゃいるけど、やめられない」という言い訳をする人は、テレビのニュースをみればたくさん登場します。

例えば東電の旧経営陣は津波対策が不十分だということを知っていたのに、対策をひたすら先送りして防波堤を高くしませんでした。また関西電力の会長・社長・役員たちは、福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていました。「ダメだとわかっていたけど、受け取らざるをえなかった」というのが彼らの言い訳です。

さて、ここからが本当の本題です。あなたにも「わかっちゃいるけど、やめられない」ことはないでしょうか?

「わかっちゃいるけど、やめられない」ことを続ける人間のことを、ハンナ・アーレントは「思考を放棄した人間」といいました。そして結果的に犯罪を犯す人のことを「凡庸な悪」と名付けました。

わたしは「思考を放棄している人」に、「思考しろ!」というアドバイスをすることに有効性があるとは思えません。理由はカンタンです。わかっちゃいるのです。でも、やめられないから、です。だから解決策は一つしかないと思います。それは・・・・・

立ち止まる

あなたも内心「このままじゃだめだな。」と思うことがあったら、勇気をもって「立ち止まる」ことをおススメします。もちろん立ち止まることは勇気がいることです。しかし立ち止まらないとわからないことはたくさんあるのです。

例えばわたしはタイミングを見計らって、会社をズル休みしていました。「ズル休みをしたほうがいいよ。」とこっそり私に教えてくれたのは、当時勤めていた会社の某役員でした。わたしはズル休みして自宅の近くで勉強したり遊んだりしていたわけですが、あの時ズル休みすることを覚えなかったら、おそらく「マシーン」になっていたと思います。

出世コースを含む、「●●コース」みたいなものに無邪気に参加する怖さに無自覚だと悲劇も覚悟しなければいけません。なぜならば気づいた時には「大きな流れ」に抗うのが難しくなるからです。

立ち止まる勇気をもちましょう。完全に立ち止まることが難しいなら「ここぞ!」という時を狙ってズル休みしましょう。それくらいの心の余裕ももてないのであれば、もしかしたらあなたはすでに「マシーン」になっているかもしれません。邪悪な心の持ち主でないのに悪さをしてしまわないようにくれぐれもご注意を!!!