ザ・スパイ -エリ・コーエン- ~ コンフォートゾーンは一つしか維持できない

『イスラエルに住むごくごく普通の事務員がスパイとしてシリアに潜入し政権中枢に食い込んでいく』というハラハラドキドキする作品を観ました。しかも実話ベースの作品というから驚きです。

最近観たNetflixのドラマでは『梨泰院クラス』、『エミリーパリに行く』以来の他人にもおススメしやすい作品でしたので紹介しておきたいと思います。

予告動画)ザ・スパイ -エリ・コーエン-

中東の歴史

日本人が『ザ・スパイ -エリ・コーエン-』を視聴する上でハードルとなるのが「中東問題についてあまりよく知らない」という問題でしょう。

1959年~1964年までのイスラエルとシリアがどのような関係にあったかわからなければ、作品自体の面白さが半減すること間違いナシ。そこで中東の歴史について簡単におさらいしておきますので参考にしてください。

イスラエル建国

ヒットラーがユダヤ人を徹底的に差別したことは説明する必要はないでしょう。しかし第二次世界大戦が終わる頃になると、アメリカ大統領のルーズベルトがユダヤ人国家建国ためにいろいろと画策していたことはあまり知られていません。

なぜユダヤ人国家をつくる必要があったのか?理由は2つ。1つ目の理由、ユダヤ人の国をつくらないとユダヤ人はこれからもずっと差別され続ける懸念があったから。2つ目の理由、ユダヤ人は「カナンの地(エルサレム)を神から与えられる」という旧約聖書の教えを信じていたから。

そう。連合国側とユダヤ人の思惑が一致したのが戦後のタイミングだったのです。1948年5月14日にはイスラエル国独立が宣言され、1947年7月11日にはパレスチナ分割決議案が国連で採択されました。

パレスチナ分割決議案とは、パレスチナをアラブとユダヤの2つの国に分割するというものです。聖地エルサレムとその周辺は国際管理下におかれることになりました。

第一次中東戦争

宿願であったユダヤ人国家の建国はユダヤ人にとっては大賛成。しかしアラブ諸国は大反対。それも当然。いままでずっと自分たちの土地だと思い込んでいたところに、いきなりユダヤ人の国をつくると国連が決めたのですから。

アラブ諸国は大反対。しかし当時のアラブ諸国はイギリス・フランス帝国主義の毒牙がまだ抜けきっていませんでした。しかもイギリスとフランスに加えて、超大国のアメリカとソ連までもがパレスチナ分割決議案に賛成票を投じたのですから、アラブ諸国が猛反対したからといってどうにもなりません。

しかしアラブ諸国としても指を加えて国連の決議を認めるわけにはいきません。アラブ諸国(イラク、エジプト、ヨルダン、レバノン、シリア)は同盟して、建国まもないイスラエル征伐の軍を起こしたのです。これが第一次中東戦争です。

第一次中東戦争の結末は?イスラエルの勝利。しかも大勝利。イスラエルは独立戦争に勝って独立を守ったのです。パレスチナ全土の約三分の二がイスラエルのものになりました。これは国連のパレスチナ分割決議案でイスラエルに割り当てられた土地よりも広かったのです。

イスラエルは何十万人ものアラブ人をパレスチナの土地から追い出すことに成功し、なおかつ追い出した人たちが残した土地や財産などをすべて手に入れました。

休戦協定を結んだアラブ諸国は泣きっ面に蜂。戦争で大きなダメージを食らった上に、もともとパレスチナに住んでいたアラブ人たちが難民となって押し寄せてくるからです。パレスチナ難民はアラブ諸国で歓迎されるわけもなく差別されます。結果、アラブ諸国は経済的にも、社会的にも不安定になってしまうのでした。

第二次中東戦争

第一次中東戦争が終結して7年後の1956年、エジプトのナセル大統領がスエズ運河の国有化を宣言をしました。表向きの理由はアスワン・ダム建設の資金を得るため。

エジプトのスエズ運河国有化にびっくりしたのがイギリスとフランス。烈火のごとく怒ったイギリスとフランスは、キプロス島に大軍を終結させました。帝国主義全盛の時代であれば勝負あり。一件落着。

しかしイギリスとフランスに異議を唱えたのがソ連。イギリスとフランスに軍事行動の停止を要求。しかもアメリカのアイゼンハワー大統領もソ連を支持。米ソの決定が世界の決定となる時代。イギリス・フランスはなくなく撤退し、スエズ運河はエジプトのものになったのです。

第二次中東戦争の結果は決定的な意味をもっていました。これまで猛威をふるっていたイギリスとフランスが中東で勝手に兵を動かせなくなったこともありますが、なによりもアラブ人にとって鬼よりも怖かったはずのイギリス・フランスの威信が地に落ちてしまったのです。

中東の秩序はイギリス・フランスの軍知力に保たれていたのに、アメリカとソ連はイギリス・フランスの威信を傷つけてしまったのです。結果、アラブ・ナショナリズムが地歩を獲得したのでした。

エリ・コーエンの生きた時代

『ザ・スパイ -エリ・コーエン-』で描かれているのは、第二次中東戦争が終結した後の1959年~1965年です。中東戦争はその後第三次、第四次と続き、その後は第一次石油危機と続くわけですが、とりあえず作品とは直接関係ないのでこのあたりで中東の歴史についての説明を終わりにしましょう。

以上説明してきた歴史を理解した上で『ザ・スパイ -エリ・コーエン-』を鑑賞すれば、教養が深まるはずです。本当は作品を鑑賞したことを前提にしてもっと論じたいことがあるのですが、それはまた別の機会にとっておくことにしましょう。